私の出生地[浜松市]美術館で声優[鳥海浩輔さん]が音声ガイドを務めている展示会があると聞きつけ、さっそく行ってきました。『挑む浮世絵』コラム第二回目は「怪奇・人物に挑む」です。幕末屈指の人気絵師【歌川国芳(うたがわくによし)】とその弟子だちの奇抜で豪胆、自由闊達な浮世絵を素晴らしい音声ガイドと共にお楽しみください。
まずは声優鳥海浩輔さんを復習しましょう
『挑む浮世絵』展の音声ガイドは600円。イヤホンマークがついている絵で音声ガイドが聞けるそう。そしてあなたは黒いソフトハットがトレードマークの声優[鳥海浩輔(とりうみこうすけ)さん]をご存知でしょうか。写真を見ても、名を聞いても分からない方でも絶対に何処かで聞いたことのある声ですよ。
弱虫ペダル/ 今泉俊輔役
刀剣乱舞/ 三日月宗近役
ジョジョの奇妙な冒険第5部/グイード・ミスタとセックスピストルズ
いよいよ浮世絵展へ挑む!②怪奇に挑む
舞台変わりまして、血しぶきにまみれた障子の世界へ。『②怪奇に挑む』展示が始まります。
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ヒーローの勇ましさを強調するためには、彼らが対峙する怪奇をいかに恐ろしく表すかということが重要なポイントとなる。また、状況が異常であればあるほど画中のドラマ性は高まる。国芳は血がほどばしる残虐な場面を描いたが、弟子もまたその路線を受け継いだ。~中略~「怖いもの見たさ」という名の好奇心、そしてもっと、よりもっと刺激の強いものを求める人間の性は今も変わらない。国芳たちはそうした時代の要請に的確に応えたのである。ここでは怪奇を描いた作品や「血みどろ絵」と呼ばれる作品を紹介。
月岡芳年作/1867年頃/英名二十八衆句 福岡貢(えいめいにじゅうはっしゅく ふくおかみつぎ)
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刀に魅入られ切り続ける美少年。妖刀は「青江下坂(あおえしもさか)」。実際に起きた事件(恋人の遊女に裏切られたと勘違いし殺害)を題材にした歌舞伎がテーマになっています。懐紙が舞い散り、美少年の凛々しい横顔が実にドラマティックな一枚です。
落合芳幾作/1867年頃/英名二十八衆句 げいしや美代吉(えいめいにじゅうはっしゅく げいしゃみよきち)
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惚れて恨んで殺した相手は実の妹だった。妖刀「村正(むらまさ)」の力に魅入られ、叶わぬ恋に怒り果て、深川の芸者美代吉を切るが、彼女の詫び状で実の妹と知る事になる。狂気に走った主人公の表情は、船の屋根にかくれてほぼ見えないが、まるで併走する近くの船から惨劇を目撃したような気分になります。
落合芳幾作/1867年頃/英名二十八衆句 邑井長庵(えいめいにじゅうはっしゅく ならいちょうあん)
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[轟く雷鳴] 「惨い殺しも金ゆえだ。恨みがあるなら金に言え!」後ろから義理の弟を笠ごとばっさり切りつける偽医者の長庵。[後ろに居る犬がワンワン吠える] 犬が鳴くと、「こいつも鳴かざあ、殺されねえに。」と犬も殺します。歌舞伎のワンシーンです
実は[音声ガイド14]の絵には雨が隠されています。「正面摺(しょうめんずり)」という技法で色を付けずに紙の光沢だけで出来る模様です。舞台公演ではよく雨が降っているように見せる演出がありますが、絵の世界にも「見えない雨」を取り入れるだなんて、さすが芝居狂の落合芳幾です。お見事!真下から見上げると雨に見立てた線が光に照らされてまるで降っているかのように見えてきますよ。美術館でご覧ください。
いよいよ浮世絵展へ挑む!③人物に挑む
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浮世絵の歴史を通じてその中心には常に美人画、役者絵があった。国芳、芳年の美人画では~中略~理想的な女性の姿を描くのが目的ではなく、女性の心に踏み込んだ表現が見ものである。思いもよらぬ「~したい」という作品もあって楽しいし、故事の見立てなどが重ねられれば楽しみ倍増である。~中略~芳年の美人画、特に後半期の作品では、現実味がありすぎてドキッとするものにも出会うだろう。
歌川国芳作/1844~46年頃/江戸じまん名物くらべ こま込のなす
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国芳が描いたのはヒーローだけではありません。浮世絵のメインテーマでは美人画と役者絵の作品も沢山あります。こちらは江戸の名産と女性を組み合わせたシリーズの一枚です。愛らしい瓜実顔の娘さんがナスの皮を剥いています。国芳は時代が求める美人像を追いつつも、親近感がわく女性を描いています。朗らかにキュッとしぼった口元に彼女の一生懸命な様子が現れています。
歌川国芳作/1852年頃/山海愛度図絵五十七 はやく酔をさましたい 豊前小倉縞(さんかいめでたいずえごじゅうしち~中略~ぶぜんこくらのしま)
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○○したい女性の姿を全国各地の名産と組み合わせたシリーズ絵です。酔っぱらった女性が「もう飲めませんよ、ご勘弁を。」と断っているところでしょう。無理強いはいけませんよね。
月岡芳年作/1888年頃/風俗三十二相 暗さう明治年間妻君の風俗(ふうぞくさんじゅうにそう くらそうめいじねんかんさいくんのふうぞく)
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さまざまな女性の気持ちを描いている芳年、晩年の美人画シリーズです。説明がなくても彼女たちがどんな状況か分かります。こちらは行燈の芯をのばして灯りの調節をしている暗そうな人妻です。「これくらいでいいかしら。」と作業に集中する様子がよく分かりますね。まるで自分が隣で寝ていて、ふと目を覚ました時に思いかけず見てしまった、そんな現実感があります。
歌川国芳作/1852年頃/四代目 中村歌右衛門死絵(よんだいめ なかむらうたえもんしにえ)
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死に絵といっても怖いものではありません。江戸時代には有名人が亡くなった時は死に絵が良く作られていました。こちらの絵は歌舞伎役者[中村歌右衛門]の死に絵です。国芳は彼のファンなのです。なるほど、この貫禄も、歌右衛門の魅力を良く知っていたからこそですね。この顔、よ~く覚えておいてくださいね!
音声ガイド付きの絵が沢山あったため、「挑む浮世絵」コラムは計4回シリーズに分けます。美術館展示会の出口から出てきた方はおしなべて皆様「疲れた~」と言われていました。かくゆう私もかなり体力消耗。それだけ見どころ満載の展示会です。続きのシリーズ第三回目をお楽しみに!第三回目が一番国芳のことを好きになる回ですから、最後までご覧くださいね!